衆目を抜けるように早足でテーブルに着くと、
皆が期待とも不安とも取れる微妙な顔で僕を迎えてくれた。
緊張でみるみる土気色に変わっていく僕の顔を見ていて、
同じテーブルの仲間達もまた大きな緊張と不安に駆られていたに違いない。
さんちゃんがしきりに「亀なら大丈夫」と、
爽やかな笑顔を向けてくれる。
その隣のウッディが「なんくるないさ」と、
気負いを打ち消そうと必死になってくれる。
鷲尾くんは笑っているだけ。
緊張の極限にいる僕と目が合う度に
顔を伏せて笑いを堪えるのに必死という感じで。

とりあえず、「お酒を飲もう!!!」。
異様なテンションで僕は叫び上げた。
経験上、友人代表のスピーチは披露宴中頃。
冒頭の場合もあったが、それは友人代表と会社代表を兼ねていたからだ。
披露宴が盛り上がってきた中盤辺りが一番妥当であるし、
これまでも必然として、その順番に収まっていた。
それまでに酔っ払い過ぎず、頃合いの"酔い"を完成させねばならない。
当座の緊張を抑えたい気持ちも強かった。
席に座る皆も友人の緊急事態を見かねて、
早めの祝宴開始に、大いに賛成してくれた。
披露宴は始まっていないが、
スピーチという大役を果さんとする土気色男子の
無理を聴いてくれぬ筈が無かろうて。
異様なテンションのままで、
すぐ近くに居た給仕さんにお酒を頼む。
「あのぉ、すんません、ビールをつかあさい」
「すいません、乾杯までアルコールはちょっと…」
一瞬、心の中に風が吹いた。
ウェルカムドリンクでのアルコールなしは今まで何度かあったが、
披露宴会場に入ってしまえば、普通にお酒を出してくれていた。
以前出席した同様の迎賓館系列でも、だ。
アルコールに頼り切る予定だった僕は狼狽した。
スタッフに話をしてみても答えは同じだった。
迎賓館の行き届いたサービスが大好きだった。
数多くの友人に「迎賓館いいよ」と伝えてきた。
幾人かの友人はその伝聞をきっかけにして式場を選んだと聞く。
私は迎賓館さんに褒められることはあっても、
このような仕打ちを受ける謂れはない。
大きな絶望が僕を襲った。
意気消沈する僕に、スタッフがスピーチの順番を伝えにきた。
「今日はよろしくお願い致します。
スピーチは乾杯の後すぐとなりますので……」
皆が笑う。それでは酒が飲めないではないか!!
酒に頼ることが出来ないではないか!!
缶ビール、買っとけば良かった。
45分のバス移動すら不安になる頻尿の自分を、心から憎んだ。
膀胱を、我が膀胱を。
知らず知らずの内に顔を伏せて、目線を落とし、
膀胱を睨む形となっていた僕はしばらく放心状態だった。